「住宅建築の予算」(10月10日)の後編です。
一般の方が、ハウスメーカーや建売(あるいは売建)会社に話を聞けば聞くほど、わからなくなってしまうのも無理はありません。住宅業界の仕組みは、一見簡単なように見えて実はとても複雑です。
あえて簡単に言うならば、ハウスメーカーであれ建売(あるいは売建)会社であれ、建築家が設計するものであれ、すべての住宅は本来「特注の注文住宅」なのです。すなわち、すべての図面が引き終わらなければ正確な見積もりは弾けないのです。
敷地の条件は土地ごとに違いますし、要望や間取りも家族構成によって違います。
従って、最低でも10ページ~20ページぐらいの図面が完成しない時点で、もしもハウスメーカーや建売(あるいは売建)会社が見積もりを提示するときは、プランや仕様にある一定のルールや制限を取り決めしておくことによって、値段を「仮定」できるようにしてあります。
そんなわけで、彼らは図面を1~2枚書くだけで見積書を提示できたりするのです。
たとえば工法や材料、あるいは仕入れルート、メーカー等々、あらかじめ取り決めしておくことによって、できるだけ安く仕入れ、典型的なプランパターンに当てはめることによって設計費用を安価で外注し、(そこに明記はしていませんが)宣伝費用や営業費用を加えた見積が出来上がります。
そんな状況で、もし住宅の建築を予定されている方が建築家の設計した住宅をイメージしながら色々な要望を追加すると、あらかじめ「仮定」した想定プランや仕様には合致せず、要望を出せば出すほど外注の設計料も上積みされ、一生懸命動いてくれた営業マンの営業費用も上乗せされてしまいます。結果として、ハウスメーカーや建設会社に特注住宅を依頼すると、我々が設計を行うよりも高い見積がでてきてしまったりするわけです。
建築家の設計する住宅は、すべてが特注の注文住宅です。要望を伺いながら設計図面をまとめ、途中には概算見積もりをとったりしながら、予算に合わせて図面を仕上げます。そしてその詳細な図面(ハウスメーカーや建売(あるいは売建)会社が書く図面よりも3倍ぐらいの密度と枚数)をもとに、正確な見積もりを建設会社に依頼し、建設会社も図面を詳細に拾い上げて見積もりをまとめ、希望どおりのプランが予算内におさまるように調整します。
もちろん、すべての要望を満たすことができないことは、多々あります。ものには値段があります。柱一本でも値段があり、ドア一枚でも値段があります。また、相場によっても建設費は変動しますから、そういった一つ一つの仕様を確認しながら、最大限、要望に近いものを作り上げるのが、我々の仕事になります。
結果としては、ハウスメーカーや建売(あるいは売建)会社のいわゆる標準仕様よりは、建築家住宅は高いものになりますが、彼らに特注品を依頼するよりは、我々のものの方が安くつくことが多いのです。
たとえば、ハウスメーカーに依頼すると、吹き抜けのある大きなリビングルームやら屋上テラスや坪庭のある浴室などは、なかなか実現できません。モデルルームでそういったものがあったとしても、実際に依頼してみると「オプション設定」だったりします。特別な要望がなければ、 ハウスメーカーの標準仕様で十分だと思いますが、独自のデザインで自分にあったライフスタイルの住宅を求めているのであれば、建築家と二人三脚で作り上げていくのは、大きな喜びとなるとでしょう。
こんな短い説明では把握しきれないかもしれませんが、業界をめぐるお金の仕組みを理解してもらえれば、前述の相談にいらした二組の方々 も、あらかじめ希望にあった進め方・会社を選択し、悩みは少なくてすんだと思います。(田島則行)